2019年9月は、北米ではハリケーン・ドリアンがバハマに壊滅的被害を与え、日本では台風15号が勢力最大時には955ヘクトパスカルにも成長し、過激な気候災害を及ぼしました。先月レポートしましたように、私も千葉県袖ケ浦市で大停電などの経験をし、気候変動のもたらす深刻な影響を我がこととして実感するようになりました。
そんななか、国連気候行動サミットがニューヨーク国連本部にて9月23、24日の2日間開催され、スウェーデンからヨットで渡米した16歳のグレタ・トゥーンベリさんのスピーチが大変注目されました。トランプ大統領やプーチン大統領から皮肉や批判を浴びた彼女ですが、私は彼女の言葉を素直に受け止めたいと思います。
顔を真っ赤にして各国のリーダー達に若者たちの怒りの言葉をぶつける姿に、いつまでもこんな思いを未来を生きる子どもたちにさせてはいけないと心から思いました。
こういう国際的に切迫した機運のもとに、具体策を持ち寄る目的で開かれた今回の国連気候行動サミットに、日本の小泉環境大臣は具体策を準備できず表舞台でスピーチの機会さえ与えられなかったとレポートされていますし、国連のプレスリリースにも日本の名前がどこにも出てこないのは本当に残念なことです。
こうした一連の環境イベントの流れに沿うように、2019年10月2、3日の2日間、東京・お台場のホテル、グランドニッコー東京にて第43回クライメート・リアリティ・リーダーシップ・コミュ二ティ・トレー二ングが開催され、幸運にも選考に通り参加してきました。
企業、自治体、NGO/NPO等の環境問題に取り組むリーダー達が日本国内だけでなく、海外からも参加し、総勢800名以上が1会場に集う大がかりな研修会でした。
このトレーニングは、ドキュメンタリー映画「不都合な真実」「不都合な真実2」等を通じ差し迫った世界的な問題である地球温暖化、気候変動の問題を世界に訴え、2007年にはノーベル平和賞を受賞した米国の元副大統領、アル・ゴア氏が立ち上げた"The Climate Reality Project"のプログラムの一環です。
今回43回目にして初めて日本で開催されたものですが、国外ではすでに150ヵ国、2万人ものトレーニング修了者がいます。気候危機について職場や地域の仲間を啓発し、時代遅れの政策を変えようと無償で活動することを期待されています。
2日間、ホテルで缶詰め状態で濃密なプログラムが展開され、とても簡単には紹介しきれません。ただやはりメインは、アル・ゴア氏のスライドショーを駆使したプレゼンテーションといえます。初日はパワーポイント1GB以上ものデータ量になるプレゼンテーションで、2時間半にも及ぶ渾身の訴えを聞きました。
気候危機について、「変えなければならないのか」「変えることができるのか」「変える意思があるのか」の大きな設問を置き、それぞれに説得力のある”YES”という答えを導く圧巻の構成です。
まず解説されるのは温暖化のメカニズムです。それは世界中の科学者たちが導き出した結論である「化石燃料などの燃焼などによる人為的で爆発的かつ大量の二酸化炭素などの温暖化ガスの大気への放出が原因」を強く支持しています。
そしてそれは本当なのか現実なのかを、「変えなければならないのか」の導入パートとして、全体の3分の2ほどの時間をかけ、世界や日本で頻発する台風、ハリケーン、洪水、熱波、旱魃、氷河の消失と海面上昇などによる浸水などの災害と生態系への悪影響の具体例をこれでもかというほど紹介していきます。先日の台風15号や昨年関西空港を襲った台風21号の写真も盛り込み、日本人にも他所事ではないという現実を喚起してくれました。
あまりにも悲惨な映像・画像が続き、「気候変動は未来の話ではなく現在発動中で、昔の地球の安定的な気候はもう壊れてしまっている」との強い喪失感を抱き、涙がこぼれるほど感情が揺さぶられるものでした。内外の過ぎ去った災害の記憶は薄れ、散漫になりがちなのをこうしてまとめて再提示することは、気候危機の事実認識を新たにすることができるため、大変重要なことです。
続く「変えることができるのか」「変える意思があるのか」は、前のパートから否応もなく「変えなきゃいけない、変えなくてどうする」という気持ちにさせられていますが、それに加えて、脱炭素の決定版である再生可能エネルギーの世界各地での爆発的な普及という希望をつなぐ現象を豊富なデータで解説してくれました。
日本ができることとしては、
・既存のパリ協定を掘り下げ排出削減を強化する
・再生可能エネルギー、特に太陽光、風力、地熱に対する支援を強化する
・固定価格買取制度を改正し、送電網の統合を進める
・新しい国内の石炭火力発電所と国際的な石炭への資金調達を撤廃する
・特にビルにおけるエネルギー効率を向上させる
という4つの提言が示されました。
日本企業はRE100などの取り組みを、政府に先駆けてやり始めたことも希望が持てることであり、変えることができ、変える意思がある証拠です。
プレゼンテーションの締めくくりは、「最後のNOのあとにYESがくる。そしてそのYESにこそ、未来の世界がかかっている」というウォーレス・スティーブンズの言葉でした。
直前まで最新の日本のデータや画像を組み込む作業をしながら500枚を超えるスライドを2時間半にもわたって完璧に説明しきる知力と体力、情熱をもつアル・ゴア氏には感服するばかりです。
さらには、トレーニング修了者が同じようにリーダーとしてこのプレゼンテーションをハンドリングできるよう、また一般の方々にも聞いていただけるよう、上記の2時間半のプレゼンテーションを15分にまとめたショートバージョンを2日目に披露してくれたのにも度肝を抜かされました。15分でも十分伝わるのです。が、もはやこれは神業といっていいかもしれません。
ここまでネタバレのように言葉でざっと概要を説明しましたが、研修を終えた今回のメンバーが今後各地で様々な機会に行うプレゼンテーションに一度は是非触れてほしいと思います。
The Climate Reality Projectから、アル・ゴア氏が今回行った約1.7GBものプレゼンテーションデータの使用権を付与され、さらには適宜必要に応じてスライド追加、削除などが認められています。パワーポイントの1枚1枚のスライドのノートには、科学的なエビデンス情報・出典が満載で自分で検証することもできます。アル・ゴア氏の直接の語りかけではなくとも、内容の再現性は高く保たれると思います。私も身近なコミュニティでできるだけの機会を作って、紹介していきたいと考えています。
今回のトレーニングは、過去企業に勤務していた時に受けたどの研修より優れていたと思います。特に有益だったのは、特定非営利活動法人コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンが行ってくれたワークショップです。なぜ私がこの話をするのかという個人の感情を感じさせ、話に共感をもたらす"My Story"を織り交ぜて話をするというスキルです。
コミュニティ・オーガナイジング・ジャパンの社会人2年目という女性スタッフが、たった3分程度で環境問題に興味を持ち始めた自分の生い立ちをキャンプ経験などを交えてキュートに要領よく説明してくれたのには会場が感動でどよめくほどのインパクトを与えました。
気候変動、気候危機への取り組みを呼び掛けるのには、理詰めではなく、人それぞれが持つ感情が込められなければ大きく人々は動かないということを、この年にして学ぶことが出来ました。
もうひとつ実感として学べたのは、グレタ・トゥーンベリさんが始めたフライデー・フォー・フューチャー(FFF)のような、人生経験が大人ほどないがゆえに本質を直感的にとらえらることが出来る若者の起こす力を信じ、支援して世の中を変革していく方法論。頭が固くなって、言い訳や説教から始まる大人、自分の現世利益しか考えられない大人を説得する猶予はもう余りありません。
気候危機に関して自分にできそうなことを見つけ、行動し、自分では手が届かないより大きな取り組みは、個人が協力しあって企業や自治体、政府に要求して実現していくこと。フライデー・フォー・フューチャーのような運動の大きなうねりはこれからもさらに拡大していきそうです。
文責:林 彰一
以上